大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(う)4570号 判決

原判決は正当防衛たるがためには防衛行為が急迫不正の侵害を避けるのに唯一の方法であつた場合に限り、逃避ができた場合には、相当性や必要性がなく従つて正当防衛が成立しないように説示しているが、これは誤である。緊急避難の場合はそうであるが正当防衛の場合には他の方法で難を避けることができた場合にも正当防衛の成立を妨げないのである。原判決は正当防衛に関する「己むを得ざるの」意義の解釈を誤つたもので右違法は判決に影響があること明白である。

論旨は結局理由がある。

(弁護人控訴趣意)

第一点 原判決は事実の誤認があつて其誤認が判決に影響を及すことが明かであるから破棄さるべきである。

(一) 原判決は本件被害者二橋正治が被告人に襲いかゝろうとするのを避ける為止むなく投げ付けた椅子が二橋正治に命中し傷害死に至らしめた被告人の本件処為は正当防衛行為であるとの被告人並に弁護人の主張を「八島昭三に於て一応二橋正治を制止していたものであるから被告人は歩道上を北方に或は車道を出て北方又は南方に避ける事が十分なし得るものと認められるにかゝわらず、被告人はかゝる方法を採用せず前記の如き経緯により激昂の余り本件犯行に及んだものであるから被告人の本件犯行はその際の情況に照し必要且つ正当な防衛とは認めることが出来ない」との理由で排斥している。

(二) 然し乍ら被告人よりはるかに強力暴力に秀でた被害者二橋正治の立塞がる道路に向つて逃避する以外に被告人が脱出する場所のないことは原判決自らも認める処であつて、其通路には二橋正治が居り八島昭三に制止されているとは言え、被告人を打ちのめさんと呼号して立塞がり(原審証人古屋泰証言、一三一丁、一三二丁)其二橋正治は柔道二段と称し、かつて非常に暴力を振つた事があり、且つ制止する八島昭三は二橋正治が柔道二段であることを知つていたので投げ飛ばされる虞があり逃げようとしたものであるから(原審証人八島昭三の証言一四二丁、一四三丁、原審証人古屋泰証言一三三丁)被告人が二橋正治の暴力を排除する外に逃避し得ないと思料することは当時の情況としては誠に尤であり且必要であつたもの即ち正当防衛行為と言う可きである。

(三) 本点の争点は二橋正治の暴力を回避する方法があつたか否かに帰するが夫れを物理的に計算するは当を得ない。常識的に当時の情況下に回避し得ると期待出来たか否かにより之を決すべきである。本件は他に回避の方法ありとは期待出来ない事前述の通りである。

然るに原審判決が前記八島、古屋の証言を採用しながら正当防衛に非ずと認定したのは明らかに判決に影響を及ぼす事実の誤認を為したものである。

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